せまいオフィスに「ジュージュー」といった音、そして香ばしい匂いがたちこめる。試作と試食を繰り返す日々が続く。今回展開する新業態の料理メニューの充実に取り組むオーナーやスタッフの熱気が伝わってくる。
打ち合わせの都度試食する料理は、新鮮さの中に懐かしさもあって、相当うまい。古くから大阪で居酒屋事業を経営してこられたオーナーにとって、念願の新業態への挑戦である。デザインの依頼を受けた時、緊張感を覚えたものの既存店のリニューアルを数点手掛けたことも手伝ってか気負いはなかった。要望はわたしの今までの作風に少し新鮮さを加えたもの、ということだった。優れた伝統的な建築、特に茶室が持つ精神性を現代的に表現することで、それに応えようと思った。
私にとって、店舗は非日常的空間であり虚構の空間として捉えている。そこに茶室との共通性があると常々考えている。与えられたビルのなか140坪という広い空間を「自然に見立てる」こと、それに対し木、土、和紙などの自然素材、そしてアルミといったさまざまな素材、色をバランスよく用い、整合性のある空間を求めた。現代のモダンな草庵をつくろうと思った。客席の中央部にアルミで覆われたあたかも船のような空間をしつらえ、それを中心に客席を配し、回遊性のある店舗を構成してみた。アルミの壁にそっと月を映し出してみた。月は「ばんらい亭」のもう一つのテーマでもある。 |